共同親権運動ネットワークは、別居親団体なので子どもに会いたいのに会えない親の相談ばかり受けているように思われているけれど、ときどき同居親の相談や悩みが入ってくることがある。
先日も元夫の側からの子どもの面会要求に、どう対処すべきかという電話が来た。弁護士に相談したところで、夫の側をモラハラだからと評価することはできても、だからどうしようという話は見えてこないようなのだ。ぼくも子どもを見ていた時期はあるので、「会せないといけない」と義務感で子どもを会せているときに、どのくらい相手の要求がうっとうしいかというのは経験したことがあるし、「うっとうしいですね」と言うことはある。「そんないいとこどりばかりして子育ての苦労なんてわからない相手には、苦労がわかる程度に面倒見させて親としての責任を持ってもらうのがいいですよ」と言うこともある。
実のところ、離婚した後に、これまで不仲ではあったにしても2人で子どものことを見てきたのが、1人で子どものことは何でも決めないといけないとなったときの責任の重さというのは、なってみてはじめてわかる。しかし周囲が、相手はモラハラ男だからと、子どもの養育時間をなるべくわりふらないように勧めると、もちろん相手の子どもへの養育時間の要求は高まる。(元)夫のほうは、そもそも月に1回2時間などの交流に制限される理由を(元)妻のほうに求める。そうするとそれを断ること自体が、ますますモラハラ夫との闘いの実践編となる。もちろん対処が難しくなって昔の嫌なときのことを思いだすと、「心的外傷」だと同情して引き離しを勧めてくれる人は周りにいる。
「だってお母さんとしてがんばってるじゃないですか。もうしっかり子育てしてるんだから、向こうに面倒見させるくらいしてもばちあたりません」とか言うこともある。多分、周りは自分一人で子育てができずに、(元)夫に子育てを頼ろうとする女性を「一人前の」母親とは認めていないのではないだろうか。女性相談や児童相談所で、精神科で治療を受けたりするように勧められた人の話をときどき聞く。その背景には、女性に「ひとり親」の母親であることを強制して、親だからってそんなのやってられるか、という人の話は受け付けない世間の偏見が、支援の分野でも疑問に思われることがないという事情はあると思う。
「去る者は日々に疎し」そのままの子どもの父親を見て、子どもの視点からいたたまれない気持ちになる親はもちろんいる。しかし元夫であっても、子どもの親として頼っていい存在であるということを肯定してくれる人は周囲にいない。そんなとき、ぼくたちのホームページを見つけて、自分が考えている家族のあり方とマッチする、と電話をかけてくるのだ。
ちなみに、「ひとり親」という言葉をぼくたちは必ずしも否定しはしない。しかしそうであれば、ぼくたちもまた「ひとり親」と呼ぶべきだ。養親であれ実親であれ、「ふたり親」家庭のみが至上であり、それ以外の親のあり方や、再婚しても再婚相手には自分の子どもの親であることを強制しない家庭のあり方を認めるには、「ひとり親」という言葉を、離婚した同居親をもっぱら想定して適用するのは料簡が狭すぎる。
先日引き離し問題を扱う市民集会を開いたときに、夫に暴力を受けたけど、子どもを連れて逃げたり、夫に会わせないなんて想定は私にはなかったし、そうこうしている間に夫に子どもと引き離され、女性相談に行くと、「もっと早く来てくれていたら」と言われて、だけど本当に子どもを連れて出ていったら「連れ去り」って言われたわけでしょう。だったらどうしたら……と発言した母親がいた。
そのとき、日本家族相談センターの味沢道明さんが講師だった。「私んところに来てくれていたら」と答えていた。味沢さんは、日本の男性運動の草分けで、性別や男女問わない関係性や脱暴力の支援を京都でしている。「京都に旅行に来なさいよ」と電話で答えて、妻子がいなくなった夫の側が電話をかけてきても悩みを聞いてあげて、双方に力がついたら修復的に関係を取り戻す支援をしている。その段階で離婚する人も別居のままの人も、またいっしょに暮らすようになる人もいるけれど、それはその人たちのオーダーメイドの家族関係を再構築する試みということのようだ。したがって、男性の側が母子が入ったシェルターに押しかけてきてトラブルになることはないし、面会交流の支援で連れ去れたことも一度もないという。もちろん男性もシェルターに入れる。
ぼくたちも連れ去る前に話し合うべきだというけれど、当人どうしで話し合えない状況にいるカップルがいることはよく知っている。しかし、葛藤が高いまま離婚の話なんかするから暴力が起きる、だから連れ去ってもいいなんてご都合主義の理屈は受け付けない。
なぜならば、実際に同居しながら二人でタクシーに乗って家庭裁判所に行って、夫婦関係について話し合うという事例を知っているし、離婚については仕方ないから裁判所で話し合おうと調停を申し立てたり、調停の最中に子どもを連れ去られて居所を隠され、子どもと会えなくなったりした父親を数人知っているからだ。これが実子誘拐でなくて何だろう。もちろん弁護士会はADRという民間調停の分野に乗り出している。弁護士が「話し合えないから連れ去っていい」なんて言うとしたら、弁護士会は詐欺団体だ。
女性支援の人達は、男性の話をあまり聞く機会がないのかもしれないが、そもそも支援団体の運営やシェルターの運営から男性が排除されているとしたら、それは男女平等のための支援だろうか、それとも、男性に犠牲を負わせても女性が有利になるための支援だろうか。そういった支援で、見えない男性が「モンスター化」することは想像に難くない。かくして世の中はDV男たちがあふれ出ていることになる。(宗像 充、「府中萬歩記」第45号から)
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